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閂は開かれる
るるりら


【閂は開かれる】

閉ざされた記憶の門のかんぬきが
思いがけない方法で開かれることを 私は知った
たとえば 少女の髪にあったリボンが
ほどかれた瞬間に急に大人び
何かを失ったかのような遠い目をしたとしたら その先にあるのは
青い空ではなく 未来の自分への便りだ

こころを射抜いた事柄は たとえ桜貝のように小さくとも
閂で閉じられた記憶世界では しずかに息をしている
すべてに光が注がれ同時に影が揺らいでいる
大人になり すっくと立つという単純なことこそを手に入れるために
捨てたつもりだったさまざまな雑多な事柄も
生命力のある記憶だけは やがて 大人になったつもりの
わたしの内側の殻を破って 出てくる少女のような わ た し

オリエントエクスプレス
わたしは昔、この超一流の急行列車に
一瞬だけ乗ったことがある
鉄道オタクの友人が 「有名な列車だよ
一瞬だけなら 切符なしでも きっと乗せてもらえるよ」
というので 乗った

ほんとうに わずかな時間だったけれど
鮮やかに翻る記憶

私が 過去をうしなったことなど無いのだ
どんな ちいさな事柄であっても 生命力のある記憶なら
こんなふうに わたしの中に質感をそのままに私の内側から
光を発しつづけるのだろう



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(メビウスリング2月勉強会 「アール・デコ」課題詩:新川和江 『記事にならない事件』 提出作品)


ハイジのおでこはアールデコ
るるりら

「ハイジのおでこはアールデコ」

塾に行く子供たち 電車を待ち
丸い おせなで ゲームする
一番線に 白ヤギが紛れ込んでいますご注意ください
満員電車の中で みんな気付きません
二番線に 黒ヤギが入りますご注意ください
がらがらのホームに黒ヤギが ひしめいていてもみんな気にしてません
だれも駅に とどまりはしないし みんな どこかにゆくのです

みんな何処かへ帰りたいのです どこー
少女のデコはハイジとおなじ アールのデコ―
いささか混雑 いささかいさかい けれど
まぶたを閉じると アルプスの白い雲
しろぱんのように やさしいのは どこー
なんだかやわらかい 何処か遠く
クララと一緒の こころの居場所

クララの暮らす部屋はアールデコ
窓を開けてはいけません おそとは いけない空気しか ありません
ハイジもわすれそうな アルプスのおやまも
おとなたちが 汚そうとしていますから
こころを開いてはいけません

三番線に おじいさんがきます
四番線で こくりこくりとふねをこぐ
あらあらゲーム機が ゆびから落ちそうな
少女のおでこを こやぎがぺろり
なめている

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(メビウスリング2月勉強会 「アール・デコ」課題詩:新川和江 『記事にならない事件』 提出作品)